
プロダクト改善や新機能開発では、ユーザー行動を正確に捉えることが重要です。
とくに、ユーザーインタビューのような「ユーザーの声(定性)」に頼る場面では、その前提として「実際の行動(定量)」を押さえておけるかどうかで、得られる示唆の深さが大きく変わります。
ユーザーヒアリング前に行動データを収集・分析することで、
どのユーザーに何を聞くべきか
どの画面・どのタイミングの体験を深掘りすべきか
ユーザーの発言が「本音なのか」「建前なのか」
といったポイントを、ブレずに押さえられるようになります。
結果として、インタビューの質や、そこから生まれるプロダクト改善アイデアの精度は飛躍的に高まります。
本記事では、ヒアリング前の行動分析がもたらす価値と、その具体的なアプローチを紹介します。
1. なぜユーザーインタビュー前に行動分析を行うべきか
1.1 ユーザーヒアリングの精度を高める
ユーザーの記憶と実際の行動には、必ずギャップがあります。
「よく使っています」「あまり使っていません」といった自己申告だけでは、実態を正しく捉えきれません。
このギャップを埋めるのが、事前の行動分析です。
どの機能をどのくらいの頻度で使っているのか、どの導線から流入しているのか、といった 事実ベースの情報をもとに質問を設計 することで、抽象論にとどまらず、行動データに基づいた改善策を導き出せます。
メリット
行動データに基づいた質問設計が可能になる
「自己申告」と「実際の利用状況」のズレを意図的に確認できる
どのシーンの体験を深掘りすべきかを明確にしたうえでインタビューに臨める
1.2 仮説検証を効率化する
行動データを入り口にすることで、仮説検証のプロセスも効率化されます。
ヒアリング対象者の選定から、インタビュー結果を裏付ける定量的証拠の取得、さらには機能の不使用理由の深掘りまで、一連の流れを一貫したストーリーとして組み立てやすくなる ためです。
たとえば、次のような流れが取りやすくなります。
1. 行動ログから「特定機能の利用率が低い」事実を把握
2. 利用率の低いユーザー群を抽出し、インタビュー対象として選定
3. なぜ使っていないのか、どのタイミングで離脱しているのかをヒアリングで深掘り
4. インタビュー結果を再度、ログで検証(同じパターンが他ユーザーにも見られるか)
このように、定量(行動データ)→定性(インタビュー)→定量(検証) のサイクルを回すことで、「思いつき」ではなく「再現性のある仮説検証」が可能になります。
メリット
行動データに基づき、最適なヒアリング対象を選定できる
インタビュー結果を補完する定量的エビデンスを取得できる
「なぜ特定機能を利用しないのか」といった利用状況に沿った問いを深掘りできる
1.3 バイアスを軽減する
ユーザーの発言は、主観や記憶の偏りによって影響を受けることがあります。
「良いユーザーと思われたい」「なんとなくそう言った方がよさそう」といった心理も働きやすく、ヒアリングだけに頼ると、本質からズレた結論にたどり着いてしまうことも少なくありません。
こうしたバイアスを補正してくれるのが、行動データです。
意識されていない行動パターンの発見、表面的な回答と本音のギャップの検証、そして事実に基づいた冷静な議論。これこそが、データを活用したヒアリングの価値です。
メリット
ユーザーが意識していない行動パターンを発見できる
表面的な回答と本音のズレを検証できる
客観的なデータをもとに、事実ベースで議論を展開できる

2. ユーザーインタビュー前の行動分析の方法
この章では、ユーザーヒアリングをより効果的にするための行動分析の具体的な手順を解説します。
step1 ユーザーグループの選定
行動データをもとに、ヒアリング対象を適切に分類・選定します。
「とりあえず既存ユーザーの中から数名お願いする」のではなく、誰の声を集めると意思決定に役立つのかを意識して切り分けることが重要です
例
新規ユーザー、アクティブユーザー、休眠ユーザーの分類
特定機能を頻繁に利用するユーザーと、まったく利用していないユーザーの比較
特定の課題が発生しているユーザー層の抽出
ここでは、「施策に直結しそうなセグメント」を明確にすることがポイントです。
誰の行動を、どんな視点で理解したいのかを一言で説明できる状態を目指します。
step2 ユーザーの行動パターンの特定
ユーザーがプロダクト内でどのように動いているかを分析し、ヒアリングの仮説を構築します。
例
頻繁に利用される機能とそうでない機能の特定
離脱しやすいポイントの特定
期待されたフローをたどっていない行動パターン
この段階では、「なぜそうなっているのか」はまだ分からなくてよいです。
まずは「何が起きているのか」という事実を整理し、「このポイントの裏側に、どんな体験があるのだろう?」という問いをリストアップしていきます。
step3 典型的な利用シナリオの作成
具体的なケースを提示できるように、ユーザーの典型的な利用シナリオを作成します。
これは、単なる「行動ログの要約」ではなく、ユーザーの一連の行動をストーリーとして捉え直したもの です。
例
「○○の機能を使った後、すぐに離脱していること多い」
「特定ボタンのクリック率が低い一方、他ページの滞在時間は長い」
「Aという機能を使ったユーザーは、Bの機能を使わない傾向がある」
これらのシナリオをベースに質問を設計することで、ヒアリングの精度をさらに高めることができます。
たとえば、
- 「この画面のあとに、よく離脱されていますが、そのとき『やめよう』と思った理由は何でしたか?」
- 「Aの機能はよく使われている一方で、Bはほとんど使われていません。この違いについて、どのように感じていますか?」
といったように、具体的な文脈を提示しながら質問できるようになります。

3. 行動分析を活用したヒアリングの進め方
収集した行動データをもとに、ヒアリングの設計と分析を行う具体的な方法を紹介します。
3.1 ユーザーへの質問の設計
事前の行動データをもとに、質問を具体化します。
ポイントは、「どの行動の前後で、何を感じていたのか」を聞ける形にすることです。
利用状況、利用頻度から質問を設計
「この機能を週に3回利用されていますが、使いづらさを感じることはありますか?」
「月に1回ほどのご利用ですが、どんなタイミングで使うことが多いですか?」
行動の背景を掘り下げる
「この操作の後にすぐ離脱されていますが、不便に感じた点はありますか?」
「このページで長く滞在されたあと、次のアクションに進まないことが多いのですが、迷われていたポイントはありましたか?」
仮説の検証
「特定ページを長く閲覧したあとアクションを起こさないことが多いですが、情報が足りないと感じた・決めきれなかった、など心当たりはありますか?」
一方で、関係性がまだ築けていないユーザーに対しては、行動を特定するような具体的な質問が、不安や警戒心を与えてしまうことがあります。
そのため、「より良いサービスの提供」を目的にユーザー行動をもとにヒアリングしていることを、最初に丁寧に伝えることが大切です。
また、操作回数や離脱箇所などのデータを把握していたとしても、質問の中で数値や具体的な場所をそのまま伝えるのではなく、ユーザーへの配慮を込めた表現に変換することも重要です。
「監視されている」という印象ではなく、「一緒にサービスを良くしていくための共同作業」というトーンを大切にしましょう。
3.2 ユーザーの発言と行動の照合
ヒアリングで得た回答を事前の行動データと照らし合わせて分析します。
ここで大切なのは、「発言」と「行動」の両方を並べて見たときに、どのようなパターンが見えてくるか、という視点です。
「使いやすい」と言っているが、実際には利用頻度が低い
→ 必要性が低い機能? そもそも利用シーンが明確でない可能性
「分かりにくい」の声が、特定の機能のみで発生している
→ その機能だけにチュートリアルやヘルプを用意すべき?
「面倒」と言われる機能が高頻度で使われている
→ 手間はかかるが価値が高い機能? ショートカットや自動化で体験向上の余地があるかも?
このように、「行動だけ」「発言だけ」を見るのではなく、ギャップそのものをインサイトとして捉える のがポイントです。

4. まとめ
行動分析を先行させることで、ユーザーヒアリングの質は劇的に向上します。
単に「ユーザーの声を集める」場ではなく、定量と定性を組み合わせて、意思決定に使える学びを得る場 へと変えていくことができます。
データに基づくアプローチがもたらす具体的効果
仮説の精度が向上する
記憶や主観に依存しない、客観的な分析が可能になる
ユーザーの発言と行動のギャップを明確に捉え、真のニーズを把握できる
最後に、実践のための簡単なチェックポイントを挙げておきます。
インタビュー前に、「どのユーザー群に何を聞きたいか」が行動データベースで説明できるか
行動データから、離脱ポイントや利用頻度の高い機能を事前に洗い出しているか
質問が「具体的な行動シーン」に紐づく形になっているか
インタビュー後に、「発言×行動」を並べて振り返る時間を確保しているか
このアプローチを取り入れることで、プロダクト改善の施策はより実効性を持ち、CX(顧客体験)の質的向上へとつながります。データの力を活かし、真に価値あるプロダクトへの進化を加速させましょう。
Wicleは、プロダクトチームが容易にデータ分析できるよう設計されたプロダクトアナリティクスツールです。
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プロダクトアナリティクスツールについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
プロダクトアナリティクス(プロダクト分析)とは?

